アリスズc


「今日は慎まなければならない日ですのに…」

 朝早い剣の稽古だったが、やはりどうしても、剣を打ち合う音は隠せない。

 それで、テイタッドレック親子、桃、そしてリリューが、ずらりと並べられてお小言をいただくこととなった。

「テイタッドレック卿が、率先して外に出られるとは何事ですの」

 一番の罪人は、どうやら父だったようだ。

「すみません、夫人。今日しかなかったものですから」

 苦笑交じりに微笑んで、父はまるで母に叱られる子のようだった。

「若い人は、迷信めいたことは嫌いでしょうけど…昔から言われていることには、それなりの理由があるのですから、19日だけは慎まれてくださいな」

 そうして、ようやく夫人のお小言は締めくくられたのだ。

「おと…うさまは、満月は怖くないの?」

 呼ぶ時に、たっぷりのためらいを拭えないまま、桃は夫人が見えなくなってから聞いた。

 すると、父はふっと笑った。

「キク先生の方が怖いな」

 あー、なるほど。

 それは、同感だった。

「まあ、それは冗談にしても…これを握っていると、空の上にあるのが何でも気にならなくなる。不思議なものだな」

 自分の腰に下がる日本刀に、ぽんと軽く触れる。

 エインの視線が、一瞬だけその動きを追った。

 そうよね。

 うらやましくないわけがない。

 桃だって、実際に刀を渡されるまで、欲しくて欲しくてしょうがなかった。

 いまやまさに、彼はその時期なのだろう。

 そんな、三人の動きとは違って。

 リリューは、視線を遠くに投げていた。

 何気ないというより。

 何か、気になるものでもあるかのように。

「どうしたの、リリューにいさん?」

 桃が、彼の視線の先を追ってはみたが。

「いや…何でもない」

 本当に、何もなかった。