アリスズc


 テルは、多少の前途多難を感じていた。

 初顔合わせは、アクの強い4人が集まったという様相で。

 仕切るヤイクに、彼を完全に無視して、入口付近で使用人のように立つエンチェルク。

 そして。

「殿下が決められることに、口を挟みすぎではありませんか?」

 そんなヤイクを、煙たがる男。

 軍令府の府長の末息子──ビッテルアンダルーソン。

 まっすぐな気性は、ヤイクの変化と毒にまみれた言葉や性質を、よくは思えないようだ。

 長い旅になるのだ。

 どこかで、ビッテには折り合いをつけてもらわなければならないだろう。

「勿論、最終決定は殿下だね。だが、雑務まで殿下に考えさせるのは、愚かな従者しかいない証だよ」

 いまはまだ、言葉の上でヤイクに踊らされていた。

 心配なのは、エンチェルクだ。

 あれほど、道場で付き合いがあったというのに、彼女はその時とは全く違う顔で、そこにいる。

 無理矢理、主君を変えさせられ、まだそれに納得しきれていないように見えた。

 ウメの勧めで、従者になることを受け入れたのだろうが、心はウメのところに置いて来てしまったようだ。

 自分以外の三人を見たところ、テルという人間に忠義を誓ってくれる者は、現時点ではビッテだけだろう。

 その彼も、身分的な忠義に過ぎず、中身はまだ軽い。

 それぞれ、個性的で才能のある人間を選択したのはよいが、旅の集団としては、余りに皆が違う方向を向いていた。

 彼らを、テルはまとめなければならないのだ。

 さて。

 彼は、顔を二人の男に向けた。

「最初に行っておく」

 ピリっと、ヤイクとビッテが言葉に反応する。

「三人とも、それぞれ肩書は違うが、旅の間、俺はみな同じように扱う」

 言葉に、ビッテは意味を把握しかねるような瞳をする。

 エンチェルクは、動かない。

 ヤイクは、大げさにため息をついた。

「そんな理不尽なことには…慣れっこですよ」

 彼の頭の中には──モモの母親の顔でもよぎっていたことだろう。