アリスズc


「機会があれば、都へいらっしゃいませんか?」

 ホックスは、そうジリアンに話している。

 桃は、それを少し珍しく思った。

 言葉に、熱意を感じたからだ。

 いや。

 彼という人間そのものが、少しずつ温度を上げている気がする。

 女二人が、寺子屋見学で遅く帰って来た時、一番怒っていたのはホックスだった。

 学問のみの世界で生きようとしていた彼は、旅と人を通じて随分変わったのだ。

「でも私、余り長い間、太陽の木の側を離れたくありません」

 その変化を、ジリアンは知らない。

 彼女は、なめらかな早口で都に興味がないことを伝えるのだ。

 興味があるのは、屋敷にある太陽の木。

 それだけなのだと。

「あの木は、そう遠からずあなたのものではなくなります」

 ホックスは──ひどいことを言った。

 桃は、直接ジリアンと話をする機会はなかった。

 だが、彼女が曽祖父に太陽の木をもらい、それこそ都に興味がわかないほど、その木のことを大事にしている。

 それくらいは、聞き及んだこととさっきの言葉から理解出来る。

「そんなことありませんわ。何て失礼な!」

 ああ。

 案の定、顔を真っ赤にして怒り出すジリアンに、桃は困った汗をかいた。

「貴女は、次の領主になるわけではないのです…」

 だが、ホックスはたじろがなかった。

 そして。

 核心を突いたのだ。

「貴女の立場と年齢を考えれば、そう遠くなくどこかへ嫁ぐことになるでしょう。そうなると、太陽の木と引き離されることになります」

 ジリアンほどの早口ではないが、彼は多弁だった。

「そんなこと…!」

「都へいらっしゃい。そして、太陽妃の庇護に入られるといいでしょう。そうすれば、勝手に嫁がされることはありませんし、あの木の正式な持ち主として、太陽妃の名の元に認可される道が残されます」

 ホックスの言葉が──ジリアンの早口に勝った瞬間だった。