アリスズc


 その女性は。

 ハレたちに、幸福を運ぶ使者となった。

 村に入る時、彼らは大勢の村人に感謝を持って迎えられたのだ。

 祭りの時と、同じような飾り付けを広場にしつらえて。

「よかった、ちょうど飾りつけが終わったところです。皆さんが来ると聞いたら、村の人たちが突然浮かれ始めて」

 ジリアンは、相変わらずの早口で、要点のつかみにくい言葉をハレに放り投げる。

 そんな彼女の向こうに。

 あの、男がいた。

 太陽の果実に魅入られた男。

「お待ち申しておりました。必ず、もう一度お立ち寄りいただけると信じてました」

 捧げられた大皿に並ぶのは──果実。

 完熟を、いまやまさに過ぎようとしている、甘い芳香の実が。

 その数は。

 3つではなかった。

 たくさんの実が美しく、そしていまにも崩れそうな不安の美をたたえていたのだ。

「あれから、ぽつぽつとつぼみが増え…20になりました。実もちょうど20あります」

 誇らしげな彼の言葉に、ハレは胸を締め付けられた。

 この男は。

 20のつぼみに、20の実をつけたのだ。

 ひとつひとつ丁寧に、受粉させていったのだろう。

 そして、すべての実を、彼が来るまでもぎ取ることなく、ぎりぎりまで待っていたのだ。

 どれほどの、自制心と熱意がそこに必要だったか。

 これほどまでに完熟し、果物としての価値が下がる直前まで待ったのだ。

 ジリアンに、彼らの到来を聞いて、慌ててもぎに行ったのだろう。

 彼女には、この男のことを伝えていたから。

 太陽の木の成木を、ジリアンが見たいのではないかと思ったから。

 たった20。

 村人は多く、その味を楽しめるのを、いまかいまかと待っている。

 いや、すばらしき20だ。

 ハレは。

 皆と、この実をほんのわずかずつ分け合うのだ。

 20年前。

 父が、この男の心に植えた太陽の木の因果は、こうしてハレに巡ってきたのだった。