アリスズc


「基金?」

 都からの使いを待つ間、テルには時間だけは山ほどあった。

 そのおかげで、ヤイクと話す時間もまた腐るほどあるのだ。

 最近。

 彼の文官は、一日の多くを、ビッテとエンチェルクも同席させるようにしていた。

 わざわざ神殿に許可を取り、二人が入れるように取り計らっていたのだ。

 テルと彼が語り合うことは、この二人にも深く関係してくるのだと言いたいのだ。

「そうです、基金の創設」

 国が動いて何かをする度に、必ず必要になるのがお金だ。

 年々、貨幣経済が活発になり、お金というものについての重要度は格段に上がっている。

 寺子屋のように、名誉で釣れるものであれば簡単なのだが、すべての分野でそうはいかない。

「まず、出資します。国から、あるいは裕福な貴族、商人から、お金を募るわけです」

 そして。

「そのお金を、運用します…要するに、増やすべく使います」

 穀物や商品の売買、貸付による利子。

「お金を増やしながら、必要な目的に使うのです。こうすることで、原資を減らすことなく使え、以後の国の負担が非常に軽くなります」

 聞きながら、テルはおかしくてたまらなかった。

 お金を増やす!

 しかも、商売で!

 それに、国が関与すると言っているのだ。

 これまで、テルが一度も考えたことさえない突飛な話。

 だが、とても愉快で合理的なものに思えた。

「何の基金が、必要だと思うか?」

 ヤイクは、誰も見ずにそう問いかけた。

 テルにではない。

 敬語ではないからだ。

 独り言か?

 無駄な独り言など、彼が言うはずもない。

 ビッテ?

 いや、彼は思考の畑が違う。

「災害基金がいりますね…そして、医療…あと…教育でしょうか」

 思考のひだをたどるように、ゆっくりと答えたのは。

 エンチェルクだった。