アリスズc


 晩餐の席にいるのは、夫人、クージェ──そして、エイン。

 テル側は、ヤイクと二人。

 テルは、しげしげとエインを見た。

 一度モモに似ていると思ったら、本当にそう見えて仕方がなかったのだ。

『秘密』

 テルの質問に、彼女はそう答えた。

 父が誰か、という質問だ。

「他の方は、いつごろ到着なさいますか?」

 クージェが、好奇心を抑えられないように問いかける。

「クージェリアントゥワス…」

「よいではありませんか」

 夫人が彼をたしなめるが、聞いてもいない。

 彼女も心配なことだろう。

 夫人の身にもしものことがあったら、イエンタラスー家はこの若い青年のものなのだ。

 若い養子は、まだ領主の器ではなく、彼女は老いている。

 年齢のせいか、はたまた男手がないせいか、夫人はクージェの教育がしっかり出来ずにいるようだった。

「貴殿は、何か得意なものはおありか?」

 テルは、彼の質問など簡単に聞き流し、逆にこちらから問いかけた。

「竪琴など少々…」

 答えが得られなかったのが不満か、クージェは怪訝混じりの声で答える。

「そちらは?」

 テルは、エインの方へ視線を流した。

 彼は、静かに食事を続けていたが、質問に手を止める。

「剣を少し…まだまだ未熟です」

 父親が教えているのだろう。

 キクの弟子に習っているというのならば、彼女もまた自分の同門ということになるのか。

「刀に触ったことはあるか?」

 テルは、少し意地悪な質問をしてみせた。

 父が帯刀しているというのならば、彼にとってそれは身近なもののひとつだろう。

 すると、彼は何かを思い出したように困った顔をした。

「無断でそんなことをしたら…父に殺されます」

 触れることさえ、許されていないようである。

 テルは、笑ってしまった。

 さすがは──キクの弟子だ、と。