アリスズc


 飛脚が始まる日、マリスを見た。

 彼が、何かを送ろうと思っても、不思議にも思ってなくて。

 飛脚は──絵を運んでいたのだ。

 アルテンの元へ。

 衝撃の大きさに、エンチェルクはなかなか立ち直ることが出来なかった。

 うまい受け答えも出来ないまま、あっという間に短い時間は過ぎてしまい、彼女は応接室を出なければならなくなった。

 壁に手をついて、足を止める。

 うまく、歩ける気がしない。

 アルテンが、どれほどウメを愛していたのか。

 別れてしまえる程度の愛。

 心のどこかで、エンチェルクはそう思っていた気がする。

 モモが、父親を恋しがる姿を見てはいたが、会わない方がいいと、彼女は思っていた。

 きっと傷つく、と。

 なのに、なのに。

「大丈夫か?」

 声をかけられ、はっと顔を上げた。

 ビッテだ。

 後ろには、テルとヤイクもいる。

 イエンタラスー夫人が、時間がないと言ったのは、テルとの正式な対面があったからか。

「だ…大丈夫で…す」

 答える唇が震えていて、自分で驚いてしまった。

「ビッテ…ここは安全だから、エンチェルクを部屋まで送ってやれ」

「はい」

 足を止め、道を開けるビッテ。

 応接室へ行く彼らもまた──見てしまうのだ。

 あのウメの肖像画を。

 テルはともかく、ヤイクがあれを見たら。

 いまの自分が、何故大丈夫ではないのか、きっとバレてしまう。

 きっと、また蔑まれるだろう。

 だが。

 いま、エンチェルクの心にあるのは、ウメというより、そのウメをとてつもなく深く愛した男のこと。

 アルテンは帰り、エンチェルクは残る。

 あの時、自分が持っていたウメの側にいられるという特権意識など──何とちっぽけな感情だったのか。