なぜか、ふと青木夏月の顔が頭に浮かんだ。
理由はわからない。だけど脳内にあいつが言っていた言葉が雲のように流れてくる。
――『話を聞いてほしいとき、なにも言わずに傍にいてくれる人はいるの? 』
繰り返し、繰り返し、頭の中でリピートしている。
……本当に俺らしくない。
女の体が俺の上で揺れている中、全く違うことばかりを考えていた。
本当に、本当に綺麗な青空だ。この空の下でみんなはどうやって過ごしているのだろう。
いや、どうやって過ごすのが〝普通〟なんだろうか。
例えば散歩をしたり、例えばどこかに出掛けたり、例えば美味しい物を食べたり、俺は……俺はなにをやってんだ?
――ガシッ。
「きゃっ……」
俺は女の腰を掴んで、そのまま勢いよく起き上がった。
「ゆ、由希……どうしたのー?」
唖然としている女を放置して、俺は屋上から出た。
今までたくさんの女と経験してきたけど、途中で中断したのははじめてだった。
それと……頭の中に女の顔が浮かんだのもはじめてだ。
青木夏月……。なんであいつの顔が浮かんだんだ?



