宮野麻奈の意外な言葉に俺は動揺を隠せなかった。だけどこの言葉の裏側に真実があることは確かだった。
宮野麻奈は一呼吸して口を開いた。
「きっと冴木くんは覚えていないと思うけど、あの放課後。あの時のことさえなければこんなに苦しくなかったんだよ」
あの放課後………?
俺の中でフラッシュバックしていていく記憶の糸。その糸の先には中学の昇降口の廊下で切なそうにしている宮野麻奈がいた。
――『あ……明日で日直終わりだから』
生徒たちが帰った教室。
そうだ……あの時俺は……。
『ねえねえ由希。この後うちに来ない?今日親いないんだけど』
体育館裏のコンクリートの上で中三の先輩が言う。俺は飲み終わったペットボトルをグシャリと潰して立ち上がった。『面倒くさい』そう吐き捨てて。
時間は4時30分。生徒たちはほとんど帰宅して学校は静まり返っていた。
〝面倒くさい〟思えば最近この言葉しか言ってない気がする。多分口癖みたいなもの。面倒なことを自ら受け入れてるのは俺だけど。
自分でも矛盾してると分かってる。
体だけ繋がれば満足できるバカ女は吐き気がするほど嫌い。だけどそんな女しか相手にしていないのは俺だ。
吐き気がするほど嫌いだけど、本気にならない女はラクだった。
〝本気〟ほど面倒なものはない。



