俺は電話を切った。その瞬間、心臓がバクバクと鼓動してもうあとには引けないんだと実感した。


「……どうしたの?」

ずっと待ってくれていた青木が不安そうな顔をしている。

ろうそくの火は溶けかかっていたけれど、まだオレンジ色の炎は継続していた。俺はそっと腰を下ろして青木の真正面に座る。


「途中だったのにごめん。……火消していい?」

俺の言葉にコクリと青木は頷き、俺はフーッとろうそくの火を吹き消した。17本の炎は一気に消えてそれと同時に居間の電気が点けられた。


「青木ありがとう。俺の誕生日を祝ってくれて」

ろうそくの匂いが漂う中、俺は青木の目を見つめる。


「ううん。私こそよかった。冴木くんの誕生日を祝えて」

青木は早速目の前のケーキに包丁を入れてワンカットに切ってくれた。

取り分けてくれた俺のケーキには〝誕生日おめでとう〟と書かれたチョコレートのプレートとイチゴがふたつ乗っていた。

青木のぶんのケーキを見るとそこにイチゴは乗ってなくて、青木の優しさが胸に染みる。


「俺……会うことになったんだ。父親と」

そう言ったあと青木の反応は少し意外なものだった。


「……そっか。全部じゃなくていいから、ひとつでも冴木くんの心が軽くなることを祈ってる」

青木は絶対に反対すると思ってた。俺がどれほど父親を憎んでいるか知ってるし、背中に押し付けられたタバコの跡だって見てるから。

たぶん青木は俺が悩んで決めた決断をわかっているから背中を押してくれたんだと思う。

今日は17歳の誕生日。そして俺が大きく前進した日になった。