「あ、それともうひとつ実はあるんだけど……」
青木はテーブルの下からなにかを取り出した。そして。
「冴木くん。17歳の誕生日おめでとう」
その言葉と一緒に出てきたのは丸いホールのショートケーキ。イチゴの乗ったケーキには17本のろうそくが立っていた。
「本当はケーキも作ってあげたかったんだけど時間がなかったし冴木くんの家にオーブンなかったから」
「………」
「冴木くん……?」
今まで何度も思った。
なんで俺は生まれてきたんだろうって。
誕生日なんて祝ってもらった記憶はないし、家に父親がいる以上母親もイベントごとにはこだわらなかった。
それに誕生日でも関係なしに父親の暴力は続いたから『やめて!今日は由希の……』と母親が俺をかばうけど、父親にとってはそんなの関係なかった。
母親に守られながら殴り続ける父親の顔を見た。
今日は俺が生まれた日。こんなヤツでも俺が生まれたときになにか感じたのだろうかと、そんなバカなことを考えていたことを思い出していた。
こんな風にだれかに祝われることなんてないと思っていた。
それはこの先も永遠にそんな日がくるはずないって……。
ずっとうつ向いてる俺を見て青木はきっと色んなことを察したんだと思う。
「今日は17回お祝いしようよ。私、歌はあんまり得意じゃないけど何回でも歌うから」
ケーキの上に乗った17本のろうそくに火が灯り居間の電気が消された。オレンジ色の明かりが俺たちの顔を映し出し、ケーキの甘い匂いがする。
恥ずかしながらハッピーバースデーを歌う青木を見て、俺はどうしようもなく抱きしめたくなった。



