「俺、付き合えるかもしれない」

次の日の昼休み。竹田が泣きそうな顔で言ってきた。学食で買ったパンをひと口食べて「ふーん」と話を流す。


「ちょ、もっと関心持てよ!」

竹田が好きな女のことは俺も知ってる。名前は長崎千尋。以前合コンをした時にいた女だ。

竹田の下らないノロケ話が暫く続き、その間俺はパンを二個も完食した。


「あーあ。お前にもこのときめきを分けてやりたい。……つーか冴木は彼女作らねーの?」

突然話を振ってくる竹田だったけど答える前に「……作らねーよなお前は」と付け加える。わかってるなら聞くんじゃねーよ。


「でもさ、最近お前変わってきたし特定の人とか作ってもいいんじゃねーの?」

〝特定の人〟そう言われて思い浮かんだのはやっぱり青木の顔だった。でも俺の答えは決まってる。


「ムリだよ」

俺はパンの袋を丸めてペットボトルのお茶を一気に飲んだ。


「なんで?」

「俺が女だったら絶対に俺みたいな男は嫌だから」

「ふーん。まあ、俺が女だったら絶対俺を選ぶけどな。だって俺優しいし超一途だし?」

全力で否定したら可哀想だからとりあえず「はっ」と鼻で笑ってみる。


「……でもお前でもいいかもなー。だって冴木いいヤツじゃん」

竹田はぽろぽろとコロッケパンの欠片を机に落としながら言う。


俺はこのとき気づいた。

竹田や青木ははじめから俺に壁を持たなくて、ズカズカと自分のペースに引きずり込む。だけどそれが不思議と〝ここにいてもいいよ〟と言われてる気がして安心した。

俺のことをいいヤツだと言う人は、それ以上にその人がいいヤツだから。

俺はこんな人間になりたかった。
こんな人間になれたら……って思う。


「って、なんで俺らこんな話してんの?気持ちわる」

竹田の言葉に俺は「たしかに」と笑った。