あの雨の日、きみの想いに涙した。




……ガチャッガチャ。

台所から普段は聞けない音が聞こえてきた。


ガチャ……ガチャガチャ。

廊下で繋がっている俺の部屋からは余計に音が響いていて、ドアを開けっぱなしにしてもらったのはこのためだ。


もう何年もこんな音は聞いてない。料理なんて自分じゃ絶対にしないし、台所に立つ人なんてもういないと思っていたから。

なんでかな……すごく落ち着く。


小さい頃の記憶は嫌なことばかりだけど、この音を聞いて浮かんだのは母親の顔。そういえば母親は料理を作るのが好きだった。そんな姿を俺はこっそり後ろから見ていたっけ。

……こんなことを思い出す日がくるなんてな。


俺はだれかがいる安心感でいつの間にか眠っていた。なぜかいつも見る父親に殴られる夢は見なかった。その代わり母親の膝で眠り、頭を撫でられてる夢を見た。

夢だけど、なんだか夢じゃないような気がした。


そのころ料理を作り終わった青木がまるで母のように俺の頭を撫でていたことは知らない。