びくり、と女の身体が強張るのがわかった。思った以上に大きくなってしまった声に、俺自身も戸惑う。
だけど、他人の口から兄貴の事を聞きたくなかったから。
その時。
「なーんか、修羅場って感じ?敦士くーん」
重い空気を断ち切るような軽い声が背後から掛けられ、驚く。顔を見なくても分かる、能天気なその声。
「……何か用かよ、テメェ」
振り向く前に冷たい言葉が口をついて出た。
今頃何しに来やがった。
そう言いたいのを喉の奥で飲み込む。
一週間も放っておいたくせに?
「あ……、マサキ?!」
目の前の女が両手で口元を覆いながら目を見開く。
「はいそうで~す、マサキですよ~」
「え、え?なんでマサキさんがこんな、敦士みたいな奴と知り合いなの!?」
どうやらこの女は橘のことを知っているみたいだ。さっきまでのキツい目つきは消え失せて、熱のこもった視線が俺の背後へ向けられる。
「んー?俺ねぇ、敦士くんと一緒にバンド組むことにしたんだよ。だからこれからもよろしくー」
そう言った橘の腕が、背後から俺の肩に回された。
冗談じゃない。
「触んな!誰がテメェとバンドやるっつったんだよ!!勝手に決めんな!!」
マジで冗談じゃない。勝手に現れて、勝手に電話してきて。かと思ったら急に連絡しなくなって。
やっと現れたと思ったら相変わらず傍若無人な。



