蛍は嫉妬屋だ。蛍を頼らなかった為に、蛍は怒るのだろう。
蛍は私の役に立てないのが歯痒く、一番辛い事を知っている。


「蛍。」


蛍は怒ると、彼岸花の咲き誇る池の前にある縁側で、
不貞腐れるのが行動パターンだ。


案の定、蛍は黒猫の姿でそこに居た。


「…。」

「蛍。ごめんね。」


不貞腐れているその、小さな体を抱き上げて、
抱き締めた。蛍の体がピクリと反応した。


「蛍。許して。」

「姫…何故、馨に頼んだ?」

「蛍に頼みたかった。」

「では!!」

「だけど!!」


蛍が何かを言おうとしたが、私は敢えてそれを遮った。
蛍が言いたいことは分かる。でも、私にも言い分はあるのだ。


「蛍は前回私を庇った傷が癒えていないでしょう?」


そう。前回の地獄渡しで、蛍は私を庇って、怪我をした。
気丈に振る舞う蛍だが、人間では無い蛍でも、
あの傷を癒すのには、時間がかかる。


だからこそ、蛍より劣るものの、
次に長けている馨に命じたのだ。


「姫…すまなかった。」


蛍は私と向き合うと、そっと私を抱いてくれた。


「ううん。蛍。」


私は蛍を解放した。
蛍は何時もの無表情を崩して、私に笑ってくれた。
私にしか見せないその蛍の表情が、大好きなのだ。


「蛍。」

「何?姫。」

「怪我が直ったら、蛍にも頼みたいことがあるの。」

「姫の命なら、この命かけても。」

「命かけるほどではないけども。」

「そうか?」

蛍はすぐに無表情になった。
私は苦笑して、蛍の頭を撫でる。
サラサラの金の短髪が輝いて、とても綺麗だ。

「でも、蛍にしか出来ないこと。」

「全力を尽くす。」

「うん。だから今はゆっくり休んで。」

蛍だけでなく、他の子達もよく無茶をする。
本当は私の為になんてしてほしくないのだけども、
こればかりはなんとも出来ない。

私は蛍の機嫌が直ったのに、
ホッとして屋敷の奥に引き込む事にした。