「先生、ありがとね」



「ん?」



「そこまで考えてくれてありがとう」



「直だっていつも俺のこと考えてくれる」



「先生はそれ以上だもん」



「ふふふ。また俺に惚れたかぁ?」







冗談じゃなく、本当に惚れちゃったよ。



結婚してこうして幸せに暮らしているのに、あの頃のことをしっかりと覚えてくれている。



きっと先生は一生忘れない。




おじいちゃんおばあちゃんになっても言ってくれるんだろうな。





“あの頃は泣かせてばかりでごめんな”って。







泣いていた記憶なんて私の中では消えちゃってるのにね。







「ちょっと早いけど、店向かうか」




なぜか、手を繋がずに、腰に手を回す先生。



ちょっと新鮮。



だけど、くすぐったい。





「先生、ちょっとエロいよ」



「俺のスイッチ、誰かが入れたみたい」




腰に手を回して、体をくっつけて歩く。





ゆっくり。


ゆっくり。




薄暗くなった空を時々見つめて、ふたりで微笑み合う。