洗面台の横のカゴからピンクのドライヤーを取りだし、母親の元に戻ろうとした。 その時だった。 俺はあるものに気がついた。 小さな羽むしがいる。 ちょうど俺の目の高さくらいに。 そしてそれは固まっていた。 宙に浮いてはいるのに羽は全く動いてなかった。 今の母さんみたいだ。 そう思った。 もう一つ、蛇口から水滴が落ちているのに気がついた。 その水滴も、固まっていた。 いや、固まっているのではない。 止まっていた。 どうやら幼い俺は、この時時間を止めてしまったらしい。