楽しそうに留美との思い出を語る兄は気付かない。
固く握られた拳の爪痕に。
それ以上に深い心の傷に。
作り笑いを浮かべて相槌を打つ間は、絶対に だ。
だから、雪さんが叔母さんを連れて帰って来てくれた時には、正直ホッとした。
嫌な話を聞く時程、辛い事は無いとまで思ってしまっていたから。
兄の事が大好きな筈なのに
……何でだろ、今は凄く…一緒に居る事が辛い。
その日の夜は簡素なホームパーティーの様な食事で盛り上がり夜更かしをして
結局兄は次の日の昼間に帰っていった。
叔父さんが『日曜の夜に帰れば良いのに』と言ったのだが
兄は『約束があるから』と。
残念がる叔父さんの目を盗んで、あたしに
「留美ちゃんと買い物行く約束してんだ」
と耳打ちされた時は、胃に穴が開きそうになった。
更に、駅にみんなで見送りに行った時には。
「そういえばお前、留美ちゃんにケータイ買った事教えてないんだな。
俺がケータイの話題出したら“聞いてない”って言ってたぞ」
「え……」
この話の流れは、まさか。
「どうせ引っ越しの忙しさで忘れてたんだろ?
代わりに俺が教えといたから、そのうち連絡来るぞー!喜べっ」
……本当に余計な事をしてくれた。


