帰らないでここに居ると言う事は、あたしと話してくれると言う事だろうか。
勝手にクールだと決めつけていたが、実際は違うのかもしれない。
まっすぐに向けられる彼の爽やかな笑顔が何だか眩しかった。
「名前…って言うか、名字だとこんがらがるんだよね…。やっぱり名前の方がイメージできて覚えやすいかも…です」
「あ、意外な理由。じゃあ、名前だったら良いんだよな。
名前は巧実。フツーに巧実って呼んで」
「巧実…君。あ、あたしは…」
自己紹介のつもりで名前を言いかけたのだが、彼によって遮られた。
「逢坂葉瑠だろ?知ってる。
ってか、クラスでアンタの事知らない男は居ないよ」
「………」
どういう意味と捉えたらいいのか。
色んな想像をしてみたが、一番しっくりくる理由を結論にした。
「あたしが外部受験だったから、でしょ?」
そりゃ、ちょっとはうぬぼれたりも…して無くは無い…けど。それを口に出したら、自意識過剰女として扱われそうで怖い。
ちょっぴりドキドキしながら様子を伺うと、巧実君は白い歯を見せて爽やかな笑顔をこちらに向けてくる。
「まぁ、そう言う事にしといた方がいいかもな」
……それは、本当にどういう意味か。
まさか悪名として知られているんじゃないだろうな。
急に不安になってしまったじゃないか。
作り笑いをしつつ、『何やったっけ』と記憶を遡ろうとするが、またしても巧実君によって思考を遮られる。
「それはともかく。帰んないの?」
それはともかくって、あたしにとっては一大事だ!!…とは思っても言えなかったけど。
素直にここに残る理由を答えた。
「迎え来るから待ってるだけ」


