15分位で着くと言うので、電話を切って教室で暫く待つ事にした。
…照れ隠しで棒読みの台詞にしたのだが、きっと兄はそれもお見通しだろう。
電話を切った後でさえ顔のニヤケが止まらないのに、顔を見たらきっと嬉し泣きしてしまいそうだ。
それは流石に恥ずかしい。取り合えず、浮かれたこの顔をなんとかしないと…。
グニグニとほっぺたをこねくり回していると
「あれ、帰んないの?」
男の子に声をかけられた。
頬に手を当てたまま左を向くと、隣の席の男の子がバックを手に持ちながら、あたしの顔を見て笑いを堪えている。
「……ぶふっ」
堪えきれてませんが。
ゆっくりと手を膝に置きながら、彼の名前を頭の隅っこから引っ張り出す。
ええと、確か“あ行”だったよね。
えーとえーと、確か…
「相沢君、だっけ…」
隣の席と言っても、今まで話したことなど無かった。何だか彼はクールで話しかけづらかったし、彼からあたしに話しかけてくる事は無かったから、名前を呼ぶ機会すら無かったのだ。
カンで言った名前は
「……相野口だけど……」
“あ”しか合っていなかった。
「ご…ゴメンッ!!えと、相原君?」
「相野口だってば…。もしかして、名前覚えるの苦手?」
彼は苦笑いを浮かべたが、怒っているわけでは無いらしく
寧ろ『面白い』とか言って、自分の椅子では無く、机に腰かけた。


