電話機越しの兄の声は、いつになくハイテンションに思える。
『おー葉瑠!元気だったか―?俺は勿論元気だけども!!』
…何だろう。凄く絡み辛い。
「…ホントに、何の用?あたしまだ学校なんだけど」
『あーそう?なら、迎えに行くわ』
「はぁ!?」
あまりに唐突なお迎え宣言に、自然と声が大きくなる。
教室に残っていた男子達が『何だ何だ』と騒ぎ始めた。
何でもないよ と笑ゴマし、先程より声を潜めて兄を問いただす。
「どういう事?」
迎えに行くと言っても、兄はまだ地元に居る筈。明日は土曜で仕事が入っていないとしても、今からここに向かうのは相当な時間がかかるのに。
「いきなりそんな冗談言われても、良いリアクションができません」
もしかして笑いを誘っていたのだろうか?と思ったあたしは、取り合えず謝っておく事にした。
しかし、それも見当違いだったようで。
『冗談じゃねーし!驚かせようと思ってたんだけどさぁ。
今、叔父さんの家に来てるんだ。…叔父さんとの約束、忘れてるわけじゃねぇだろ?』
「あ、そうか…」
兄が一人暮らしする条件。“月に一度はあたしに会いに来る事”だったよね。
『そう、ソレ。ホントは明日来るつもりだったんだけど、明日の降水確率80%だからっつって急遽休みになったんだ。だから、叔父さんに連絡して、ここに来るって言ったんだ。嬉しいだろ?あん?』
「あー、はいはい。ウレシイデス」
わざとらしい台詞に、電話の向こうの兄は『ぷんぷん』と言いながら怒っていた。


