掴まれた腕はきしみをあげる程強く掴まれていて。
半そでのブラウスから覗くあたしの腕に、彼女の長い付け爪が食い込んだ。
「……離してよ」
「だーめっ。……あ、そうだ。あのね、紅葉の知り合いの先輩が葉瑠とお話したいって言ってるんだぁ…。後で紹介してあげるから、今はちゃんと終業式に出ようよ、ね?」
今更善人ヅラしたって、もう遅いよ、紅葉。
「………あのさ。あんた、林田と付き合ってたんだね?」
先ずは軽いジョブ。
あたしは知ってるよ、と脅しを利かせる様に。
紅葉は一瞬顔をひきつらせた。…よし。動揺してる。
手の力が緩んだ隙に、食い込んだ付け爪から逃れることに成功する。
掴まれた部分をさすると、くっきりと付いた爪の跡が、指先だけで確認できた。
「……誰から聞いたの」
「…別に、誰でも良いでしょ」
「あんたは良くてもこっちは良くないんだよ!!」
悲鳴に良く似た声で怒鳴る紅葉。
軽く耳鳴りまでしたその声は、怒りに混じって脅えも感じ取れる気がする。
「私があの男と関係があるって、何処の誰から聞いたの?」
「………」
「…早く言えよ!!見た目は豚なのに行動は亀並みにトロいの!?」
こんなに可愛い子が、お世辞にもお上品だとは言えない口調であたしを罵る。
「他に誰が知って…」
ガリガリと爪を噛み始めた時には、軽い恐怖すら覚えた。それほどまでに今の彼女は、いつもの可愛らしさなど皆無だった。
でも…もう、紅葉とは戦うって決めたんだ…。
気持ちで負けてなんて居られない。彼を守るって、決めたんだから…!


