「席に着けー」
担任がHRの為に教室にやって来て、ダラダラと席に戻っていく生徒達。
冬華と奈津も『はいはい』と言いながら、自分たちの席に戻っていった。
「出席取るぞ。えー…相野口」
「はい」
「糸…」
二人目の名を最後まで言い終える前に、教室の扉が開き、それを遮った。
振り返ると、何食わぬ顔でこちらに向かってくる杉澤君の姿が見える。
「……糸田」
「はい」
担任は遅刻してきた彼を叱りもせず、何も見なかったという顔で出席の続きを取り始めた。
…完全に腫れもの扱いだ。
生徒が彼の事を避けるのは、なんとなく理由は分かる。
あの、林田とかいう男に目をつけられたくないから。
だけど、何故教師までが。と頭を巡らせるが、やはり彼の事を知らな過ぎた。
あの一件があったせいで、もう紅葉に話を聞く事は出来ない。
もし次に話を聞く事があれば、多分あたし達の関係も破綻するだろう。
それほどまでに気迫を感じたのだ。
だから…
聞くなら、本人に しかないだろう。


