ポケットから出しかけた手を諌め、おさめる。
──やっぱり、出来ない。
法を犯すことが出来るほどの度胸もなければ、
完遂させられるほどの計画力もない。
せいぜいカッターを突きつけた時点で捕まるのがオチだ。
伏せた顔の向こうで、ドアがゆっくりと閉じられていく。
──何も出来ない男だ、おれは。
もう野垂れ死ぬしかないのかもしれない、なんて悲壮な想いに囚われる。
空腹と疲れ、そして将来への不安は、確実に男から全ての気力をもぎ取っていた。
微動だに出来ず立ち竦む男。
すると閉まりかけていたドアが、ピタリとその動きを止めた。
そして再び開き始め、半分ほどの開きでドアが固定される。
俯いた男に、タカヤという男は声をかけた。
「お客様、何か御用ですか?」
思わず上げた顔に、営業スマイルが向けられていた。