【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−

ナツと手を繋ぎ、海の中へ入ると、世界が半透明になる。


海を完全な透明でなくしてるものは、汚れじゃなくて海の浅瀬から流れる白い砂。


あまり深くないところを泳ぐ私を待ち受けている世界は、想像を絶する美しさだった。


半透明の緑かかった水色の中には、初めて見る珊瑚礁に、小魚達。


外の世界から差し込む日差しがそれら全てを輝かせる。


世界が、私のナツだけになったような錯覚に陥り、私の時間が止まる。


くいっと手を引っ張るナツに連れられ、私はナツと感覚を共有するように、海の奥に導かれた。


このまま時間が止まれば良いのになんて、馬鹿げた願いだって分かってる。


だけどそれは、この果てしない青の彼方でも溜め込み切れないくらいに溢れ続ける、馬鹿げた羨望。