【完】“微熱”−ひと夏限定のセイシュン−

なんとか異物感にも慣れて、小さなボードに移る。


潜水するスポットまでたどり着くと、インストラクターの人の指示で、着水が始まった。


ナツは私に近寄り、軽く額と額をくっつけると海の中へ消えて行った。


私は水への恐怖はないけど、こんな風に海の世界に飛び込むのは初めてで、少し不安が残る。


なかなか海へ入らない私を、海の中からナツが浮かび出て見つめる。


ナツは海面から私へ手を差し延べた。


逆光でゴーグルの中のナツの表情はうかがえないけど、きっと優しい顔をしているんだろうな。


そう思うだけで、ほら。何でだろう。不安が全部抜け落ちて、ほっこりと胸の奥が温まる。


私が単純なのか、ナツには不思議な力があるのか。もしかしたら、どっちも正解なのか。