「じゃ、俺は先に帰るから、遅くならないうちに帰って来なさい」


ナツはもう一度私の頭をぽんぽんと撫でると、ビーサンを履いたその足で、微かに足音を鳴らして帰っていった。


その足音はさっきの囁きと共に、波の音に掻き消される。


暗闇野中だと、ナツの足跡すら見れない。だから、現れたナツが本物だったのか、もしかしたら幻覚だったのかとすら思えてくる。


ナツの全てって、一体、どこにあると言うのだろうか。


私は何も知らない。何も教えてもらえない。知る権利が無いとナツは言う。


だから、悲しいんだ。


私のそんな雑念さえも、夜の波が攫ってくれればいいのにね。


明るい時は青の彼方なのに、夜の海は、果てしなく黒が広がり続けてて、私の孤独を加速させる。