「でしょ。
だから、つい、田上ってナルシストだね、って言っちゃってさ。
そしたら、キレて、別れようって言われたの」


俺は絶句した。

なんという下らないことで、別れているんだ。

「でもね、そんなつまらないことで別れたのは、あたしだけらしいよ」と、玲菜が付け足し、実は問題があるのは俺の目の前にいる女の方ではないか、とも思った。

何だかそう思うと、本当にそのように思えてきて、嫌になって考えるのはやめた。


「ねえ、あれ野球部の1年生じゃない?」

目を凝らすと、野球のユニフォームを着た、まだ小学生のあどけなさの残る、身長は玲菜ほどもない、少年が歩いてきた。


「相変わらず、あのユニフォームだっせーな」

「こら!
聞こえるでしょー。
まあ、あの緑と白の色合いは、ねえ?」

どう見ても、俺よりも声の大きい玲菜の言葉は、完全に1年生に聞こえたのだろう。

1年生たちは目を丸くして驚きながら、こっちを見た。


「ねえ、こっち見たよ!」

いや、見るだろうね、と内心で思う。

「玲菜の美貌に見惚れたんじゃねえの」

どうでも良くて、軽い冗談で言ったのに、玲菜は本気にし、そうなのかな?そうなのかな?と何度も聞いてきた。


「なあ、1年生さん」

俺が呼びかけると、1年生たちは肩をびくっと震わせた。

そんなに俺って怖いのか、と悲しくなる。


「桜、知ってるよな?」

「あ、はい。
桜さんは、とても上手いんですよ」

少し目を輝かせながら言う1年生を見て、あいつがいい先輩だとは思えないんだけどな、と思う。

それ以前に、正式な部員でもないじゃないか。


「今日、どんな感じだった?」

すると、いきなりさっきの輝きは消え、少々暗い顔つきになった。