桜は怯まない。

それは、桜の長所であり短所だ。


「もう知らん。お前みたいな生徒は初めてだ」

激しい口論の後に山田先生はそう言い残し、立ち去ろうとした。

しかし、桜は言い逃げされることが嫌いだ。自分はするくせに。


「俺はあんたに知ってほしいと思ったことは一度もない。
そして、今後も知ってほしいと絶対に思わない。
最後に一つ、この世界に同じ人間はだれ一人としていないんだ。
どんな生徒も初めてに決まっているだろう」


山田先生はきっと桜を睨み、何か言おうとして、やめた。

あたしは、心の中で桜に拍手を送る。

いや、きっとクラス中の誰もが思ったに違いない。


屁理屈ばかりで、口は達者で、誰よりも変わっているけれど、彼の言うとおり、人間はだれ一人として同じ人間はいないのだ。

あたしもかけがえのない、ただ一人の存在なのだ。

桜の言葉は、心に響く。

そして、桜と出会った人全てが彼の言葉に救われただろう。


「みんな聞いていたのか。俺はね、ああいう物分かりの悪い人が案外嫌いなんだ」

桜は腕を組みながら、口をとがらせた。

「いやいや、十分桜も物分かりは悪いって」

あたしが言うと、あからさまに桜は嫌な顔をした。

「スー、勘違いされては困る。俺は、信念が強いだけで、物分かりが悪いわけではない」

「まあ、信念が強い、も悪く言えば、強情、頑固だよな」と、ゲンがにたにた笑いながら言った。


「プラス思考という言葉を、頼朝は知らないのか?悪い方で考えるから、全てはだめになるのだ」

「桜、プラス思考はいいけど、それは現実を見ないことに繋がるよ」

川さんが口を開く。