悲しそうに言う桜は、桜の木に触れ、まるでその木に話しかけるように言った。


「自殺が多いんだ」


ああ、としか言いようがなかった。

桜は黙り、さっきまでいた子供たちが帰ったことに気づく。


「実力主義の世界だからな、合わない人もいるんだ。
だから、こっちに比べて、自殺する人は多い。
1度も誰にも愛されずに、死んでいく人もいるんだ。
それは、とてつもなく悲しいことだと思うよ」

普段無表情な桜が、珍しく悲しい顔をするから、私の胸はチクンと痛んだ。


「桜は、違うんだよね?」

桜さえ生きてくれれば、と思う私は、あの小説と同じく、どちらかが欠けている世界には興味がないのだろうか。


「俺は、違う。
だけど、こっちの人より、たくさんの死を経験した」

ゆっくりと瞼を閉じ、その木に向かって言った。


「人の死には、どうも慣れないよ」


私は、身近な死を経験したことがない。

親戚と言わなくても、飼っていたペットくらいいてもおかしくないのだが、残念ながら我が家は両親が動物嫌いなのだ。

家系的に医者が多いからというわけでもないのだが、物心ついてからの身近な死はない。


「桜・・・・・・?
いつか、話して。
あっちでのことも、辛かったことも、私は桜のこと知りたいよ。
思い出すのは辛いけど、話さずにずっと溜め込んできたんでしょ?」


「言えるはずないだろう。
誰も俺のことなんて、心から愛してくれる人も、心配してくれる人もいない。
こっちに来て、俺は人の温かさに初めて触れた気がする」


桜の言葉が、
いつも胸に響くのは、
それだけ桜が、
悲しみも苦しみも、
抱えていたから。

人の死ほど、
慣れないものはないよね。

だって、私、
桜のいない世界は想像できないし、
そんなことが起こり得るものなら、
全てを投げ出したくなるかもしれない。