子供は自分と愛する人から生まれるから、可愛いんだろう?と桜は言った。

その言葉で、私は何となく言いたいことが分かった。


つまり、子供への関心も特になく、もしかしたら他人の部類に入るのではないか。

私が独り言のように言うと、百合はやっぱり勘が良くて説明しやすいよ、と言った。


「子供も子供なんだけど、どこか自立しててさ。
親が子供をすごく可愛がることはなく、土日にどこかに連れてってもらうなんて、ほぼない。
恋愛が存在しないから、カップルがデートするなんて、有り得ない。
遊園地もいつしか寂れていって、公園で遊ぶ子供たちの声は聞こえなくなった」


とてつもなく寂しいことを言っているはずなのに、何でその世界はうまく成り立っているの?


初めて桜と出会った時の言葉が蘇る。

本当に、人間の最大のあやまちは、人を愛することなの?


「桜、それは歴史の授業で習うの?」

人が恋愛感情をなくしていく経緯を、中学生で習うのだろうか。


「いや、それを授業で習うことは禁じられている。
俺たちのタブー、といってもいいだろう。
だから、俺は全ておばあちゃんから聞いていたんだ」


「おばあちゃん?」

桜の口から、おばあちゃん、という可愛らしい言葉を聞いて少し驚く。

実はおばあちゃんっ子なのかな。


「そう。
俺が唯一、尊敬する人かもしれない。
でも、最近、こっちに来て思うようになったけど、おばあちゃんには少しここの人間と似ているところがあったな」


「恋愛感情があった、とか?」

「ああ。
完全には忘れていなかった、あの人は。
所々、話を聞いているときに違和感と言うか、懐かしいというか、変な感じがしたんだ」


まあ、また時期を見て、おばあちゃんの話はするよ、と桜は付け加えた。


「ねえ、恋愛感情がなくなれば、良いことしか起こらないの?
絶対に、マイナスの面もあると思うんだけど・・・・・・」

どんなに幸せな人が増えたって、きっとその陰で苦しむ人がいるはずだ。

そうやって、世界の天秤は釣り合うようになってるのだから。


「そうだな。
あるよ、確かに。
すごく大きなマイナス面が。
だけど、これを解決することは多分無理だ」