自己紹介の一件から、気付けばもう3か月の月日が流れていた。

そして、それぐらいになると、だんだん中学にも慣れて、いつも一緒にいるグループも確定してくるわけだ。


「暑いね、玲菜」

斜め前に座っている川さんは、顔を手で扇ぐ仕草をしていた。

「いや、川さん暑いとか言ってるけど、全然涼しげな顔だよ」

川さんはとてもクールな人で、その上美人。

だけど、あまり表情が顔に出ないせいか、頭が良すぎるせいか、頭もいいのに運動もできるせいか、皆は川さんを一つ上のような態度をとる。


「私、顔に出ないから」

口数が少ないのも特徴だ。


「いつもの、始まったぜ」


ゲンが嬉しそうな顔をして、あたし達に言った。

それと同時に、あたしも川さんも立ち上がり、桜の元へ駆け寄った。



「何で俺を佐倉と呼ぶのだ。
桜と呼べと言っているだろう。
言葉が通じないのか?」

もう7月で、なのにクーラーも付いていない教室で、桜は汗一つかかず涼しげな顔をしている。

こう見ると、意外と桜と川さんは似ているところがあるかもしれない。


「先生になんて口を聞くんだ!
お前の名前は、桜じゃなく、佐倉だ」

生徒をただ怒鳴るばかりの理科の教師は、あたし達の間でも不評だ。

しかし、桜はどれだけ怒鳴られても、顔色ひとつ変えず、動じない。


「俺は校則は全て完璧に暗記して、その上、完璧に守っている。
しかも、だ。
俺は学年トップの天才だ。
ならば、こんなちっぽけなわがままくらい聞け」

自分で天才って言うなよ、とつっこみを入れたくなるが、ここはぐっと我慢する。

「お前は天才だからと言って、特別扱いしろ、と言っているのか?」

「どうせ、先生なんて職業は差別の塊だろう?
これくらいのこと、お前らにとって日常茶飯事じゃないか。
そして、俺は桜だ」