男子にとって一年で一番過酷なバトルが繰り広げられる日が、やってきた。

俺は、桜や浅川、玲菜とは違い、あそこまでモテない。

あいつらは、尋常じゃない。

俺は実際モテないわけでもないのだが、あいつらと比べると、微々たるものだ。


だけど、こんなこと言ったら、ただの負け惜しみになるのだろうが、チョコレートは好きな子から貰えれば、それだけで十分じゃないか。

大事なのは数ではなく、愛だよ、愛。


「はい、どうぞ」


学校に来るのが早い俺と浅川は、この時間を活用して、話すことが多かった。

まだ、だれも来ていない教室で、浅川は包装された箱を差し出した。


「ああ、さんきゅ」

箱は浅川らしい几帳面な模様に、綺麗な包装、いわゆる清純系と言えば、分かりやすいだろうか。


「一番最初が玲菜じゃなくて、残念?」

「そんなことねえよ。
順番より、愛のサイズだしな」

愛のサイズと言ったら、今俺の手元にある箱はまさにそうだ。

この手に、すっぽりと納まる箱。


いくらなんでも、小さすぎやしないか?

俺の考えを読んだのか、浅川は言った。


「ああ、ごめん。
義理と本命、ちゃんと分かるようにしたくて。
でも義理あげるの、源だけなんだけど」

「桜に、あげるんだ?」


あの浅川が、少し頬を赤く染めたりして、チョコを渡すところが俺にはどうも想像できない。

とても失礼な事を言っているのは、自分でもよく分かっている。


だけど、少しばかり想像してほしい。

笑顔を見るのは月1回程度で、どんな時も言葉と表情が合っていない美女が、照れながらバレンタインにチョコを渡すところを。

俺の想像力が欠けているだけかもしれないが、何度イメージしても出てこないのである。


「一応ね」