「すまない。
俺にはヤキモチという感情は、あまり分からない」

桜が真面目に返事をしたので、少し驚きながらも、ショックを受けた。


そうです。あなたに恋愛感情はないのです。


「でも、何か嫌だった。
俺だけが、百合の名前を呼んでいいんだと思ってた」


桜は真顔で言う。

少しくらい照れてくれてもいいのに。

照れながら、微笑まれたら、もうノックアウトだけど。

それでも、そんな嬉しい言葉、真顔で言われたら価値は半減だ。


「・・・・・・って、それがヤキモチなんだよな?」

首を傾げる桜に見惚れつつ、反応に困る。


「そうなんじゃない?」

目をそらしながら、疑問を疑問で返すなんて、と自分を罵った。


「そうだよな。
とうとう、ヤキモチまで来たか」

桜は苦笑した。


「恋愛感情のない桜には、すごい進歩だね。
でも、ヤキモチって実は1番人間らしい感情だよね」

「人間らしい?」

桜はその発言に、少しは興味を抱いてくれたようだ。


「ヤキモチ、つまりは嫉妬でしょ?
それは、好きな人以外にも生まれる感情だから、恋愛感情がなくても、有り得ないこともない。
例えば小さいとき、保育所の先生がある子を褒めるの。
自分はどうしてもその子みたいに出来なくて、全然その子は悪くないのに、何故かモヤモヤした気持ちが生まれる。
それも、保育所の先生に対しての嫉妬、つまりヤキモチでしょ?
結局人間って、嫉妬の塊よね」

話しが少し長くなり、その間に桜が興味をなくしたのでは、と不安になったが、ちゃんと聞いていてくれたようで、安心した。


「なるほどな。
でも、多分今ので俺は自分のことについて、少し分かったよ。
俺は、恋愛感情ももちろんなければ、周りの人間への執着心もないんだ」

執着心、と呟くと桜は続けた。


「そう、人間への執着心がないんだ、多分」