アップなどの体を温める基本練習が終わり、ボールを触る練習の前に休憩が3分与えられた。

「やっぱり、浅川さん。バスケ上手いですね」

そうか?と聞き返すと、一ノ瀬美雪はうんうんと頷いた。


「ステップ一つにしても、大体アップ見てれば分かるんです。
浅川さん、経験者ですよね?」

「それほどでもない。
あと、浅川さんはやめてくれないか?
バスケする時は、短い名前の方がいい」

私の言葉にためらいながらも、言った。

「じゃあ、玲菜の真似で川さんでいいですか?
わたしのことは、美雪でお願いします」


「敬語も要らない」


どうも、私の言葉は冷たいらしい。

美雪は少し動揺していた。

怒らせた、とでも思ったのかもしれない。


「ごめん。
決して、怒ってるわけじゃない。
冷たく聞こえるけど、深く考えないでほしい」


この言葉を言うのは2回目のような気がする。

ああ、玲菜か。


「川さん、よろしくね」


美雪は笑顔で、私に手を差し出す。

もちろん、その手を取り、そして思う。

この子はきっといい子だ、と。


「よろしく」


それから、私は度々バスケ部に通い出した。

いや、度々という表現は不適切だ。

週6日の練習なら、4日は顔を出すようにした。


最初は桜も野球部の助っ人に行っているし、源と玲菜を2人きりにするためだったが、次第に自ずと足が動いていた。


「ねえ、川さん。
バスケ部、正式に入る気はないかな?」

美雪がある日、真剣な顔つきで練習前の体育館で聞いてきた。

確か、助っ人に行き出してから1カ月たった頃だろうか。