体育館に響き渡る、バッシュのキュッキュッという音。

バッシュとは、バスケットシューズのことである。

紐を固く結び、足首を守るこのシューズを履くのは久しぶりだ。


「浅川さん、来てくれたんだね」

一ノ瀬美雪はすごく嬉しそうな顔をしながら、駆け寄ってきた。


「こいつが、うるさくて」

隣にいる田上を、人差し指で指さしながら言った。


「百合ちゃんは酷いなあ。
こいつじゃなくて、健人って呼んでよ」

最近妙になれなれしく話しかけてくる田上だが、バスケの技術だけは認めざる負えない。


「前から一つ聞きたかったんだけど、この部に先輩はいないの?」

隣で田上は、完全スルーかよ、と嘆いているが、気にも留めない。


「ここら辺、ミニバスもないし、バスケは盛んじゃないみたいで。
だから、一応部員としてはいるんですけど・・・・・・」

「つまり、幽霊部員ってことね」

「そういうことになります」


一ノ瀬美雪が何故私に敬語を使うのかは、未だ定かではない。

だけど、ほとんどの女子は私に敬語だ。

近寄りづらいオーラは、おそらく一生ものだ。


右膝を後ろに曲げ、バッシュの底面に手を当て、埃を取る。

同様に左膝も曲げ、同じ動作を繰り返した。


懐かしい体育館のにおい。

球技大会や体育の授業では味わえない、この高揚感。

私はバスケがかなり好きなのである。


キャプテンの掛け声で始まり、ランニングなどの基礎練習から入る。

自主トレはするが、やはり一人でやるのとみんなでやるのでは、全くもって違う。

体力の衰えは若干感じるが、気にするほどでもない。