それからは、恋バナというと可愛いのだが、それには程遠い恋愛討論を繰り広げた。

もちろん、あたしも桜も一歩も譲らなかったので、勝負は次に引き延ばしになった。


「送っていきたいのだが、すまない、時間がなくて」

「大丈夫。だって、徒歩1分だし」

「俺がそういう男なら、絶対にスーを襲うことはないが、世の中にはいろんな趣味があるからな」

悪びれた感じが全くない、桜の言葉。


「それ、どういう意味よ」

「まあ、気をつけろということだ」

一瞬の沈黙。



明日じゃ遅い、明後日も尚更。

忘れた頃なんて、もっと最悪。


「さ、桜!」

桜が背を向けて歩きだしてから、呼んだ。

距離は大体5メートルくらい。

辺りは暗いし、姿は見えるけど表情までは分からない。



「今日は・・・・・・ありがとう」


小さい声だが、多分十分聞こえただろう。



「どういたしまして」


少しぶっきらぼうに言った桜は、絶対に照れていたに違いない。

顔は見えないが、何となく思った。



桜とは、喧嘩もたくさんするし、酷いこともいっぱい言ったし言われたけど・・・・・・。

でも、それはお互い信頼していて、何でも言える仲なんだよね。


桜がいなかったら、きっとトシ兄に告白できなかった。

ゲンのことも、曖昧にしてしまったかもしれない。

涙を流せなかったら、また前に進めなかった。


涙を流すことは弱さを表していると思ってたけど、
涙するのはきっと自分の弱さも悲しみも受け止めることなんだ。


桜、本当にありがとう。

大嫌いだけど、君がいなかったら、こんなにも清々しい気分にはなれなかったと思う。


親友とまではいかないけど、最高の男友達のポジションには置いてあげるね。