太陽はほとんど沈みかけて、オレンジ色の空は黒に変わりかけていた。

教室は嫌だという桜のわがままで、私たち二人は中庭で台本あわせをしていた。


「愛だの、恋だの、人間は本当に馬鹿ばかりだ」

そんな桜の言葉に、私は絶句する。


「玲菜がいたら、怒りそう」

「スーは恋愛の塊だからな」


桜はそのまま隣にあったベンチに腰を下ろした。

細くて長い桜の手に促され、私も座った。


「百合は愛する人のために、死ねるか？」


まるで自分に問いかけるかのように言うから、私は一瞬戸惑う。

目も合わせず、ただ前を向いて聞く桜の横顔に、何故か切なさを覚えた。


「まだ幼いからかもしれないけど、私はそれは出来ないと思う」


その言葉を聞いて、安堵したのか、幻滅したのかは分からなかったけど、そうか･･････とだけ桜は呟いた。


「でも、その人のいない人生が考えられないんじゃないかな。
どちらかが欠けている世界なんて、どうでもいいんだよ」

どちらかが欠けている世界か、と私の言葉を深呼吸をするように復唱した。


「それって、あの携帯小説の一節にもあったな」


うん、と呟くと同時に、その桜が大好きな携帯小説を思い出していた。

人気があったのか、元々上下巻だった小説に、続編でさらに３部出る予定があるらしい。

その続編の１部がもうそろそろ、発売日だったはずだが。


「あの子、どんな思いで彼に告白したんだろうな」

未来から来た少女は、上下巻の最後に現代の彼に告白した。

もちろん、最後はハッピーエンドだ。

一体、続編の３部作ではどうなるのだろう。


「桜、あの小説の恋愛に関しては優しいよね」

「俺は、皆に平等のはずなのだが」

「いや、ないでしょ。明らかに優しくしてるよ」

私は手のひらを横に振った。


「まあ、優しいかもな。
何か、他人とは思えなくてさ」

他人でしょ、とつっこむと、そうなんだけどさ、と言い笑った。