さっきの続きだけど、と玲菜は意外と怒っている素振りを見せず、話しだした。

未だに喧嘩は絶えない2人だが、玲菜にとって桜は、良い理解者に格上げになったのだろう。

今までは、よく言ってライバル、悪く言えば宿敵だったのだから。


「桜と川さん、本気でくっつけちゃおっか」

玲菜は人差し指を立てて、地面に落ちていた小石を勢いよく蹴った。


「もちろん、と言いたいところだけど」

俺は語尾を軽く濁らせた。


「けど、何よ」

「あいつさ、何か距離があるっつーか。
俺も玲菜も、ぶっちゃけ桜のこと何も知らねえんだよな」


「知ってるじゃん!
まず、屁理屈ばっかでしょー。それに都合が悪くなると、口笛吹くしー。
あと、暑いの全然OKだしー・・・・・・」


「そういうことじゃなくて」

玲菜の言葉を遮り、比較的大きな声で言ったせいか、目を丸くされた。


「ごめん、強く言った」

「ううん。いいから、続けて」


「あいつの誕生日とか血液型とか、どこで生まれて、前までどこに住んでたのか。
実は知らないことばっかなんだよな。
それにさ、性格的なことだって、恋愛をあそこまで否定するようになった経由は俺は一度も聞いたことなかった」


玲菜は一度もそんなこと考えたことなかったのだろう。

少し黙りこみ、下を向いていた。


「本当だね。実は何も知らないじゃん。
あたし、いつもこだわる所間違えるんだよね。
恋愛感情あるないより、何でそうなったのか聞けば良かった」


玲菜が声を震わせるから、俺は無意識に手を握っていた。

一瞬手に力が入り、驚いたようだったが、すぐにその緊張は取れたようだった。


ありがとう、と小さく呟く玲菜の声が聞こえたが、敢えて聞こえていないふりをした。

胸の高まりを抑えるだけで、いっぱいだったのだ。


こんな思いを桜もすればいいのに。

そりゃあ、その分辛いことはあるかもしれないけど。

でも、何もないくらいなら、俺は辛いことも楽しいことも、どっちも感じていたいよ。


そう思うのは、俺が今幸せだからか?