「もうそろそろ、帰るか?」

言葉だけ聞いていると承諾を取っているようなのだが、明らかにそれは決定事項だ。


桜は完全に帰る支度を済ませている。

俺と玲菜は急いで身支度を整えるが、桜はお構いなしに決定事項を話してくる。


「学校の近くまでは、一緒に帰ろう。
そのあとは、まあ、いつもの組み合わせということで」


帰る準備ができると同時に、桜は歩きだした。

自分勝手だ、と思いながらも、何故か憎めないんだよなとも思う。


「海はどうだった?」

玲菜が桜の肩をポンと叩いた。


「ああ。綺麗だったよ。
こんな季節でも人はいるんだな。
まだ寒いのにサーフィンしてる人や恋人達、家族連れとか・・・・・・。
海が綺麗だと思うのは、きっと主役を彩る脇役が美しいからだろうな」


しみじみした声で、どこか切なく桜が言うから、なんて言えばいいのか分からなかった。

海をそんな風に言う人を初めて見た。

桜ほど何を考えているか分からない人はいない、と心から思う。


「桜も、桜もいい脇役になれたよ。きっと」


浅川が優しく微笑んでいる。


桜は何故か照れて頬を少々赤くし、ああ、と呟いた。

二人の間に不思議な空気が流れた。


「でも、桜、主役だったじゃん!」

一気に雰囲気を変える玲菜の声が響く。

ロミオのことか、と瞬時に思う。


しかし、浅川と桜にはまだ分からないみたいだ。

まあ、当たり前か。

浅川の言う脇役とは、海を主役にしたときの景色にいる、桜を含めた俺たちなのに。




「文化祭の話だよ」

俺が言うと、二人は納得したような顔をした。


「二人とも、凄かったよね~」

「いや、あれは百合だよ。
百合のドレス姿、一段と綺麗だったからな」


桜の何気ない言葉に、やはり浅川は少なからず動揺しているようだ。

普段顔に出ない浅川が照れるていると分かるということは、かなり珍しい。