もしも人魚姫が少しだけ見る目があって、切り替えの早い女の子だったら・・・・・・
きっとこうしたと思うの。

涙を袖でぐいぐいと拭き取って、お姉さま方にあっかんべーをして、騎士の元へ走りだしたと思うの。

もう、それは人魚姫じゃないかもしれない。

だって、人魚姫はどんなことがあっても王子を愛し続けたんだもん。

だけど、あたしに人魚姫をやらせたんだから、あたしに似ている人魚姫を演じるぐらい許されるでしょ?


見えない騎士に向かって、あたしは満面の笑みを送る。

ヒールの高い靴を両手に取り、二年の先輩方に投げた。

見事に命中し、球技はどちらかと言えば、得意だったことを思い出す。


優人は唖然として、あたしを見ている。

深く一礼して、ステージを駆け降りる。

さよなら、優人。

やっぱりあたしの悲しみも弱さも分かってくれる人じゃなきゃ、ダメみたいだ。


会場がざわめいている。

先輩方の怒りの声も聞こえる。

あたしは、騎士の名前を呼ぶ。

騎士は筋肉の付いたがっちりした腕を差し出し、あたしはその手を取った。


何となく、新たな恋の予感がする。

本当に気が早い。


でも、まあ今度こそちゃんと決着をつけなければ。

まだ小学生だったあたしの初恋であり、本気で好きだった人に、今度会いに行こう。

そして、ケジメをつけるんだ。