お前には敵わないよ、と小さく呟くと、桜の前の席が空席だったため、そこに腰を下ろした。


「あいつの新しい彼氏さん、モテるだろ?」

「そうだな。
俺は基本、人を褒めることはないが、あの人はいい人だと思う。
頭も俺に比べれば大したことないけど、それなりだし、顔も整っている方だし、運動もまあまあ出来るし、人脈もあるし、生徒会の仕事もそつなくこなすしな」

勝ち目がない、とでも言いたげなのか、桜は時折俺を見てきた。


「だからさ、玲菜2年の女子の先輩に、目付けられてて。
なのに、あいつ、合同劇なんかやるって言いだして、俺だって怒りたくもなるよ」


「頼朝、お前、負けてる」


桜は冷たく言い、俺の目を相変わらず見ない。

誰に負けているのかは、簡単に理解できた。



「頼朝が唯一勝てるとしたら、それはスーを思う気持ちだけだ」

そんなこと分かってる。

何一つ勝てないけど、玲菜を思う気持ちは負けてない。


「世間一般で愛って言われるものか?」

「そうだ」

愛だの、恋だの、が大嫌いな桜が言いきった。


「スーを笑わせれるのも、辛い時に助けてやれるのも、頼朝以外には出来ない」


桜はやっと本から目を離し、俺の目を見て笑った。

何とも言えない感情で俺が黙っていると、桜は、実は携帯小説の中の一文を引用したんだ、と言った。



「浅川のこと、どうする気だよ」

一通りの笑いが止まって、聞いた。

「百合がどうかしたのか?」

「とぼけるなよ。
分かってるくせに。
今はまだいいけど、いつか本気で考えなきゃいけない時が来るぜ」

恋愛は目を逸らすことが出来なくなる。

いつか、本気で相手の気持ちを受け止めないといけないんだ。


「別に俺は、百合と付き合う気はない。ただ・・・・・・」


チャイムが鳴って、桜の語尾は掻き消された。

聞こうと思ったが、何となくやめた。