近くにいるからって、全部を分かってあげてるからって、決して結ばれるわけじゃない。

まさに俺は、そうだ。

本当に、全くもって損してる。


「ゲーン。あたし、合同劇に出ることになった」

嬉しそうにスキップしながら寄ってくる玲菜を可愛いと思うのと同時に、彼氏ネタであることを悟る。

どうせ、生徒会の新彼が手を回したんだろうな。

俺の予感は的中し、玲菜は笑顔で話してくれた。


「一緒にいる時間を、1秒でも長くしたいんだって」


そんなことして大丈夫だと思っているのか、彼氏さんは。

玲菜は、2年の先輩に目をつけられてるんだ。

合同劇は一から三年の代表者で行われる、文化祭のメインとなる出し物だ。

そんなの、飛んで火に入る夏の虫じゃないか。


「へえ」

「うわ。反応薄っ。
ゲンだって、何かすればいいのに。
川さんも桜も、クラス劇でいないんだよ?」

「知ってるけど。
つか、そんなにあの男がいいのかよ」

「どうしたの?
今日、何か機嫌悪くない?」

玲菜の鈍感さも、向こう見ずなとこも、質問に答えないとこも、いつもなら全て好きなのに、今日は無性に腹が立つ。


「別に悪くねえけど」

「絶対怒ってるよ。
あたし、何か悪いことした?」

「お前さ、ちょっとは人の気持ちも考えろよ」

これ以上話していたら、思ってもない言葉まで出てきそうだったので、俺は席を立った。


浅川に相談しようと思ったが、姿が見当たらず、しょうがなく桜の席に向かった。

浅川から借りたと思われる携帯小説を、熱心に読んでいた。

玲菜の様子を横目で伺うと、すでにもう、他の男女数人と話していた。


これが授業中だから、驚いてしまう。

全く、担任もいない学級会なんて、形にならないに決まっている。


「で、スーと何かあったのか?」

桜は本に目を落したまま、言った。