気分が良かったのか、桜は私の家まで送ってくれた。

「へえ。家でかいな」

「一応、両親医者だから」

親のことを話すのは、初めてかもしれない。


「桜は?桜は、どこに住んでるの?」

勇気は最大限に出したつもりだ。


そんな私の頑張りを優しく包み込むように、桜は口元を上げた。

優しい笑みに、私は口を閉ざされる。


「百合のために、文化祭は格好よくなる予定だから。
黙ってれば、俺、悪くないんでしょ?」


悪くない、なんてものじゃないよ。

良すぎだよ、桜。

どんなに変でも、私にとって、あなたは格好いい。



ロミオとジュリエット、やってやろうじゃない。

明日から、練習が始まる。

この劇は、主役以外の台詞は少ないため、2週間前までは2人きりの練習になる。


私ばっかりドキドキするのは、ちょっとずるい。


そんな可愛らしい考えを持つようになったのは、きっと100%桜のせいだ。

いや、おかげの間違いか?


桜の後ろ姿を無意識に見送る。

夕焼けが眩しい。

桜の影が夕焼けに対抗するように、縦に長く伸びる。


ゆっくりとスローモーションのように、桜の左手が上がる。

揺れている左手に、私は自分の右手を振り返す。


五感で感じ取ったのか、桜はより一層手を激しく振った。