春という季節は、どうも人に恋をさせるようだ。

新しいクラスになって間もないというのに、もう何組か付き合っている人たちはいる。

そして、その中の一組に玲菜と源のカップルがいるのだ。

いつの間に、と私が言う前に二人は仲良さそうに歩いて行った。


本当に、いつの間に。


「しょうがないから、二人で帰ろう」

うん、と返事をする前にもう桜は鞄を持っていた。

私には選択の余地がないようだ、と悟る。



いつも四人で歩いていた道を二人で歩くというのは、少なからず抵抗はある。

しかも、相手は桜だ。

嬉しいという気持ちと恥ずかしいという気持ちが入り混じり、自分が普通の思春期の女子であることを実感した。


「百合、人を好きになったことはあるか?」

桜はふと思い出したようにというわけでなく、まるでずっと前から聞くつもりだったように言った。

「多分、ある」

おそらく今この瞬間もだ、とは言わない。

というか、言えない。


「多分か。やっぱり難しいものだな」

桜は鼻の頭を掻きながら、眉間にしわを寄せた。


「桜は、人を好きになりたいの?」


「俺は恋愛については、無知に近い。
何しろ、自分の目や耳で感じれるものじゃないからな。
だから、俺の演説はあくまで俺の演説であって、というより、架空の俺の考えなわけだ。でも、最近は出来るものならしてみたいと思うよ」

そう言えば、最近桜は恋愛を否定しなくなった。

今まで散々悪く言っていたのに。


「恋愛は楽しいか?」

夕日に当たる桜は、鼻も口も目も全てのパーツが整っていて、見惚れてしまう。

少し戸惑いながらも、私は答えた。


「楽しいよ、とても」


桜が微笑んでいるのが見なくても分かる。

空気が柔らかくなるとはこういうことだろう。

桜がぱっと舞うような、そんな感じだ。