「俺は桜。桜、と植物の発音で呼んでくれ。
恋愛をすると、人間は人間でいられなくなるのだろう?
そこまでして、なぜ人間は人間を好きになるのだ?」


後から先生が付け足したが、桜の正式な名前は、佐倉圭一らしい。

衝撃的な登場から一年経った今では、彼のことを本名で呼ぶ人はいない。


「そりゃあ、子孫を残すために決まってるじゃねえか」


私の隣に座っていた、おそらく小学校の時はガキ大将と呼ばれていたに違いない、体格の良い男子は言った。


「子孫を残すために、感情はいらないじゃないか。
俺だって、子孫を残すことは必要だとは思っている。
しかし、その過程がいらないのだ。
恋愛という、人間の強欲さ、醜さが表れる行為は必要なのか?」


桜の強い言葉に皆が圧倒されている。

持って生まれた感情に、なぜ?という気持ちなど抱いたことのない、凡人な私たちに彼の考えはついていけなかったのだ。


「さっきから聞いてれば、まるで恋愛が必要ないみたいなこと言ってるけど、それはおかしいわよ。
そりゃあ、醜いし冷静でいられなくなるかもしれない。
だけど、恋愛はするものじゃなくて、気が付いたらしてるのよ」


私の斜め後ろの長髪の女子が言った。

初恋は保育所、という感じ。


私の周りは発言的な人が多いな、と思った。

現に桜も私の前の前に座っているし、この一帯で議会が行われているような錯覚に陥る。