「人間は、自然が怖いんだ」

仁王立ちして、真剣に話す桜の言葉で、俺たちは一旦作業をやめた。


「人間がどんなに進歩しても、自然には勝てない。だから、人間は自然を壊そうとするんだ。
全てが一番でないと気が済まない、これも人間の特徴だな」

桜は言いながら、近くの立派に立つ木に触れた。

「でもさ、怖いし勝てないって分かってるのに、人間は自然を壊すの?」と、玲菜は聞いた。

大抵、桜の演説に相槌を打つのは玲菜だ。

「壊せるはずがないんだ、本当は。
この地球を動かしているのは、自然なんだ。
それが、たまたま人間という史上最低な生物が発達してしまったから、全てが狂ったのだ。
自然はさ、人間のことなんて気にもかけてない。
やろうと思えば、今この瞬間にそんな生物消せるさ」

浅川はうんうんと桜の言葉に頷いてるし、玲菜もなるほど~と感嘆の声をあげているので、しょうがなく俺が相槌を打った。

「じゃあ、何で自然は俺たちを消さないんだ?」

そんなの決まってるじゃないか、と言い、そこでまた立派な木に触れ、深呼吸をした。


「自然は優しいんだ。人間なんかと違って」


桜は優しい笑みをこぼした。

自然と自分の顔が綻ぶのが分かる。


「桜、そんなこと言っても、中庭掃除は終わらないけど」

浅川の鋭いつっこみで、今まで中庭掃除をしていたことを思い出す。

これも全て、桜のせいだ。