久しぶりに向けられた声と言葉は、私には幸せすぎた。

そう思ったと同時に、なぜか目頭が熱くなる。


奥歯を噛んで、今は笑う時だと言い聞かせる。

泣くのは、後でどれだけでもできるんだから。



「桜、まだ好きなの。
本当は、変わらず好き。
私は、逃げてた。
だけど、夏が終わったら、田上に別れを言う。
そしたら、また、片思いしてもいいかな?」


桜の表情を窺う。

ゆっくりと上がる口元。


桜はいつになく、笑顔だった。


「ああ。
俺にいつか、恋をさせてくれよ」


うん、と頷こうとして、頬に何かが伝った。

そんな頬に触れたのは、私ではなく桜だった。


溢れる涙をすくう桜の指は、細くて白くて、美しかった。


「ごめん、百合。
本当に、ごめんな」


首を横に小刻みに振ることしかできなかった。

桜、やっぱり、あなたが好きだ。



どんなに逃げたって、私は結局戻ってくる。

離れたって変わるはずがなかった。


君には恋愛感情がなくて、かなり無謀な恋なんだろうけど、それでも君は言ってくれる。


俺に恋をさせてくれ、って。



それは相当な進歩だよ。