夏休みに係があるなんて、聞いていない。

まあ、夏休みといっても、もう8月の下旬だ。


宿題もすべて終わっているし、部活も大会が終わって、少し練習が緩くなったころだった。

結局、桜と会うのは1か月ぶりくらいになる。


登校日はあったが、なかなか話すタイミングがなかった。


待ち合わせした時刻には、まだまだ時間がある。

心の準備、とでも言おうか。


が、物事がそう上手く進まないのは当り前で、桜は予想に反して私が来てから数分で来てしまった。


「・・・・・・早い」

「ああ。目が覚めてしまって」


桜の強い視線に耐えきれなくなって、つい目をそらしてしまう。

これじゃあ、同じことになってしまう。


今日こそ、ちゃんと自分の気持ちを曲げない。


「桜っ」「百合」

2人の声が、揃う。


目を見合わせ、互いに譲り合い、桜が話しだした。



「俺は、百合が田上と付き合いだしたことを、受け入れられなかった。
いや、そんな格好良くないかもしれないな。
多分、嫌だったんだ、純粋に」


嫌だった、と桜の口から聞けたことが、素直に嬉しかった。


「気づいてたんだ、百合の気持ちには。
だから、田上と付き合いだしたとき、正直幻滅したんだ。
恋心なんてこんなものか、って。
だけど、それは違うよな」


桜は息を吸って、少しだけ笑みを向けた。


「むしろ、こんな俺を好きになってくれた、百合の想いは凄い偉大なんだ。
やっと分かったよ。
百合のおかげで、俺はまた、たくさんのことを知った」