「玲菜、言い過ぎ。
桜は自分の知らない気持ちを少しでも知ろうとして、私に携帯小説を貸してって言ってきたのよ」

川さんのただでさえ冷たい視線がもっときつくなる。

あたしは川さんから視線を逸らし、真剣に本を読む桜を見た。

「一言言えばいいんだよ。
桜はさ、屁理屈ばっかの捻くれ者だけど、意外と優しい奴だぜ?」

分かってる。

桜なんて嫌いだけど、桜はいい奴だ。

たった三か月だけど、あたしは桜のいい所をたくさん知っている。

もちろん、同じくらい嫌な所も知っているけど。


「ねえ、桜。さっきは、ちょっと言い過ぎた。ごめん」


あたしと目も合わせようとせず、怒っているのかな、と不安になった瞬間に桜は言った。


「俺は、今読書中なのだ。そして、玲菜って素直に謝ることもできるのだな」


「あんたって奴は、何でそういう言い方しかできないのよ!」

「俺は、褒めたつもりだったのだが。人間にとって素直に謝ることができることは、珍しいことだ」

それなら桜は珍しくない方だね、と嫌味を言おうとしたがやめた。

もう、言い合いする気力がなかったのだ。


桜とあたしはよく言い合いをする。

考え方が180度違うからだ。

むかつくし、合わないし、嫌いだけど、あたしが初めて人前で泣いたときに側にいたのは、桜だった。